2019.04.01 INTERVIEW

飛騨のテロワールが生む
良質なえごまの安定生産を目指す

飛騨地域で古くから栽培され、郷土の味として親しまれてきたえごま。最近は、えごま油が健康や美容ににいいといわれ全国的なブームにもなっている。

高冷地はえごまの栽培に適していることから、飛騨市ではえごまを地元の資源ととらえ、在来種の中から特に機能性成分を多く含む系統を選抜した「飛系アルプス1号」を品種登録し、商品開発や収穫量を増やす取り組みを行なっている。

その現場を覗いてみようと、「飛系アルプス1号」の安定生産を目指す農業生産法人エイドスタッフの代表田中一男さんの畑へお邪魔した。

飛騨の気候、地形が生み出す良質なえごま

昔から飛騨地方では「あぶらえ」と呼ばれて親しまれてきたえごま。各家庭で自給的に栽培され、家庭料理に使われるほか、祭りの日やハレの日のご馳走にはえごまのおはぎが欠かせない。香ばしく煎ったえごまの実をすりつぶし、砂糖を加えた甘い味つけが定番だ。

近年ではえごま油が優れた健康食品として注目されているが、えごまの質は産地によって大きな差がある。その中で、飛騨のえごまはαリノレン酸(オメガ3脂肪酸)や抗酸化力に優れたルテオリンといった機能性成分の含有量が高く、優れた品種といえる。

なぜ飛騨で良質なえごまが採れるのか? その秘密は土地柄にあるようだ。標高が高い寒冷地という厳しい環境で育つえごまは、養分を実の中にギュッと閉じ込める。そのため、αリノレン酸やルテオリンの含有率が高くなるのだ。

15年ほど前には、農林水産省による委託事業の補助金を活用して古川、宮川、河合など飛騨全域で栽培されているえごまの在来品種約70種類をサンプリングし、その中から機能性成分を多く含む系統を選抜し、『飛系アルプス1号』として品種登録を行った。

農家の救世主!? えごま栽培の悲喜こもごも

エイドスタッフの代表田中一男さんは、「飛系アルプス1号」の生産に賛同した組合員約50名とともに「飛系アルプス1号」の安定生産を目指している。

「えごまは独特の匂いがあって、イノシシなどが嫌うので獣害で遊休化してしまった山のふもとの農地などを活用できます。匂いには除草効果もあり、2年くらい栽培していると畑の雑草が減ってくる。そういった特性を利用すれば、飛騨の農業を盛り上げるのに一役かってくれるかもしれない」

一方でえごま栽培にはポイントがいくつかあるという。「えごまの天敵はアトリという渡り鳥。そいつがくると一晩で畑一枚分の実が食べられてしまうので、鳥対策が欠かせない。また、素人がやると近縁種のシソと交配してしまい、油がほとんど出ずに黒くなる。口にするとジャリジャリと砂を噛んどるようなもんで、とても商品にはならない」

「課題は収穫量が安定しないこと。鳥の被害や近縁種との交配だけでなく、天候や土壌に左右される面もある。収穫期が短く、収穫量を増やせないのも問題で、安定生産ができるよう収穫期が異なる品種の採用や畑の基盤整備などを進めています」

「飛系アルプス1号」でまちおこしを

飛騨市では「飛騨えごまの里推進プロジェクト」を立ち上げ、官民一体となりえごまでまちを盛り上げようとしている。2018年1月には「飛騨えごま WEEK」と題し、古川町の各所でえごまを使ったワークショップやランチ会、おはぎ作り体験などを実施。また、期間中は古川町の飲食店などがえごまのコロッケや大福、蕎麦などを販売し、多くの来場者で賑わった。

「飛系アルプス1号」を使った商品開発の動きもある。商品化されているのは、「飛系アルプス1号」から搾油した「飛騨えごま油」と、「飛騨えごま油」に抗酸化成分アスタキサンチンを配合し、摂取しやすいカプセル状にした「飛騨えごま油ソフトカプセル」。地元企業であるアルプス薬品が生産農家から買い取った「飛系アルプス1号」を搾油する純国産の商品は、健康ブームに乗って評判を呼んでいる。

飛騨の在来種を大切に守っていきたい

飛騨のえごま出荷組合は、いち早く機械化を進め、「飛系アルプス1号」の本格的な作付けに乗り出しているが、それでも栽培にかかる手間は否めない。7月中旬に植え付けをして秋に収穫した後、実を乾燥して選別、さらに乾燥させて最終選別をしたものを出荷。油を絞ったら、残った残滓(ざんさい)を引き取って粉砕し、さらに選別して食品などに二次利用する。秋に収穫しても一連の作業が終わるのは1月半ばだという。

「『飛系アルプス1号』は収穫した全量をアルプス薬品に買い取ってもらう流通のスタイルができているため、手間はかかりますが農家も比較的生産には前向きです。種が欲しいという生産者にはうちで用意した種を、苗が欲しいという生産者には苗を用意して組合員を増やし、今は50軒ほどでなんとか一定の収穫量を保っている状態」

飛騨の在来種から生まれた「飛系アルプス1号」は大切にしたい地元資源の一つ。一男さんにとっても、幼い頃から慣れ親しんだ郷土の味だ。「飛騨の在来種はえごま以外にもち米、古代米などたくさんありますが、流通が確保されないと品種を残すのは難しい。「飛系アルプス1号」はアルプス薬品との取り組みがうまくいっている良い事例。地域ぐるみで守っていきたい」

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